依頼者と対面する機会が頻繁に訪れる便利屋は、
すこしの気遣いで口コミも発生しやすい職業でもあります。
例として、とある便利屋(以下、Aさん)の体験談をお話します。
便利屋Aさんの体験談
Aさんは40代の男性です。便利屋をはじめて半年足らず。
独り身なので気楽に細々と便利屋を運営していました。
しかし、悩みはあるもの。
あたらしい依頼が来ないのがAさんの悩みでした。
単調で刺激のない会社員から意を決して起業したのに、
やっていることと言えば、前職とそう変わらない仕事ばかり。
前職で培った人脈から仕事を得ていたので当然と言えば当然です。
そこでポスティング集客に集中したところ、
ようやく小さな仕事が舞い込んできました。
依頼者は若い女性。風邪を引いているらしく依頼内容は
風邪薬とスポーツ飲料・レトルト食品などの買い物代行です。
メールで依頼を受けたAさんは喜びました。
「ようやく便利屋らしい仕事が来た」
実は、お使いのような仕事は避けたがる便利屋は珍しくありません。
というのも、長年便利屋をしていると割の良い仕事を
すでに持っていてもおかしくないためですね。
見かけではあまり儲からないとおもわれていても、作業効率を高めて
儲かる仕事に変貌させている方だっているのです。
小さな仕事は拒否して、大きな仕事に注力したほうが利益はあがりますから。
便利屋であっても一部のサービスはあらかじめ拒否する姿勢を
示すなど運営方法はさまざまです。
早速、Aさんは近くのスーパーで指定された商品を購入すると
依頼者が済んでいるアパートに向かいました。
あとは商品を手渡して、代金を貰うだけ。
ですが、Aさんは違いました。
普通、独り暮らしをしている若い女性は男性に自宅住所を
把握されるのに抵抗感を抱きます。
それでもなお、見も知らずの便利屋に頼まざるを得ない状況。
それほどまでに依頼者は辛い状態にあると考えたのです。
そういうことならばと、Aさんは依頼者にメールを送信しました。
「指定された商品をドアノブにかけておいたので、ご確認ください」
「料金は風邪が治り、余裕があるときに支払っていただければ大丈夫です」
依頼者の身体を気遣っての行為です。
もし、商品を手渡すことになれば、依頼者の女性は化粧をしていない
顔を見ず知らずの男性に見られてしまいます。
寝間着姿も晒してしまうことになるでしょう。
Aさんは依頼者の女性に、わざわざ着替えさせるような
気遣いはしてもらいたくないとおもったのです。
たった数秒でも、男性に姿を見られるのはかなりの抵抗感があるはず。
料金を支払うにしても財布を取り出し、金銭を渡すという
些細な行為ですら風邪のときには辛い。
商品をドアノブにかけたのも、通常は受け付けない
後払いを認めたのもAさんの心遣いです。
後日、依頼者の女性から料金がAさんの口座に振り込まれました。
Aさんの心遣いが依頼者の女性に伝わったのかわかりません。
お礼のメールなどは一切なかったためです。
それからAさんは急にやる気がなくなってしまい
ポスティングを一時期止めていたそうです。
そうして、Aさんは前職で培った人脈から仕事を貰う日々に戻りました。
でも、ポスティングの効果、そしてAさんの心遣いは届いていたのです。
ある日、Aさんのもとにご年配の方(以下、Bさん)から
網戸の張り替え作業を頼まれました。
いままでで受けた経験がない仕事です。
チラシに「網戸の張り替え承ります」などの文言は書いてありません。
チラシに明記していないサービスの依頼はなかなか来ないのに。
また、家中の作業は、信頼を得ていないとまず受けられません。
試金石となる作業を請け負い、評価を得てから家中の仕事を
任されやすいのが便利屋という職業です。
まだまだ怪しい職業だとおもわれているのが便利屋です。
いきなり信頼されることはないはず。
Bさんの名前にも心当たりがありません。
見知った仲でもないはず。
それなのになぜ?
Bさんの話(実際はメール文章)を聞くと疑問は解消されました。
Bさんはあの風邪薬のお使いを依頼された女性から、Aさんを
紹介されたとの旨が記されていたのです。
AさんはBさんから、例の女性が Aさんに対して感謝をしていたと聞き及びました。
Aさんがあずかり知れぬところで口コミがすでに発生していたのですね。
「質の高い仕事をしていれば口コミが広がる」とはよく言われます。
ですが、間違いではないけれど正しくはない情報です。
便利屋は専門家ではありません。
基準点に達していればあとはその他の部分で評価されます。
Aさんは自身の自己評価として「不器用なほう」だと語っています。
それでも、気遣いができる性格であるのはたしかです。
Aさんの場合においては質の高いサービスではなく、
ちょっとした気遣いでお客さんの心をつかんでいるのでしょう。
これはAさんの強みだと言えます。
口コミも発生しやすくなりますし、リピーター率も高くなるはず。
きっかけを掴めば好循環を得やすい運営方法です。
ネット集客専門型の便利屋ではないかぎり、地元や隣町の方々と
良好な関係を築くのは基本となります。
腕はそこそこだけど、人当たりが良いというだけで
仕事を貰える便利屋・職人もいるほどですから。
基準点に達する仕事をしてくれるのであれば、
あとは相性が合うかどうかを重視するお客さん(依頼者)は
決してすくなくありません。
不快な思いをするくらいなら、多少腕が劣る人に仕事を頼みます。
腕は一流でも、ぶっきらぼうで癖の強い職人。
腕は普通でも、とっつきやすい職人。
どちらを選ぶ?という問題ですね。
おそらく貴方の周囲にもこのような魅力を持った人は存在するはず。
仕事ができるというわけではないのに、高評価を持たれる人物が。
便利屋としては最良の資質だとおもいます。